にぎやかな声が聞こえる。

周りの市場は活気づいていて、買い物客でにぎわう・・。

市場に並ぶ品物の数は豊富で何度見ても飽きない。

全ての中枢の地・・・。

 

首都だ。

 

第七章 〜 大切なもの、大切な人〜

 

「うわぁー! さすがは首都! にぎやかだねぇ。」

地元とは違うにぎわいに、リョウは思わず声を上げた。

人々が皆荷物を持って行き来している。

もうすぐ夕飯時だ。その買い物だろうか・・・?

わくわくした表情を抑えられないリョウの隣でレオナが静かにため息をついた。

 

「・・・・馬鹿みたい。」

「・・・え?」

 

リョウ本人としては見慣れぬ風景に胸の高鳴りを抑えられないのだが、どうやらレオナは違うようだ。

彼女の顔を見ると不愉快な表情をしている。

彼女の眉間にはしわが寄っていた。

 

「もしかして・・・レオナは人混み嫌い?」

「は?」

「いや・・ずっと厳しい顔してるし。人混みに弱い人とかいるしさ。」

リョウの周りにも人が沢山いる場所は苦手だという人がいた。

その人は、余りの人の熱気に倒れてしまったりしたのだが、もしレオナもそうであるならこの人混みは苦痛だろう。

「別に。・・・・それより。」

 

ふと、言葉を切ってレオナはリョウを見た。

どうやら違ったらしい。

突然言葉を切った彼女に対しリョウは首をかしげた。

何か、おかしなことでも言っただろうか。

そう思っていると彼女は彼の目を見て言った。

レオナは軽く眉をひそめている。

「気安く、呼び捨てしないでくれる? 私、貴方とまだ会ったばかりなんだけど。

あんまり初対面の人に馴れ馴れしくされるの好きじゃないの。・・・・嫌い。」

「ご、ごめんっ!!!!」

慌ててリョウは謝る。

リョウの住んでいた村では皆、下の名前を呼びすてし合っていたので

ここでも別にいいかと思っていたのだが・・。

小さな村とは違うのか。

やはり、いきなり初対面の男から名前で呼び捨ては抵抗があるのだろうか・・。

リョウは自分の考えのなさを反省した。

村と同じノリで話しかけてはいけない。

教訓だ。

これからの旅にも役に立つだろうか・・。

 

「あ、じゃあ・・・レオナさん?」

さん付けではどうだろうか。

「それも嫌。」

うっ・・・。

彼女の即答にリョウは思わず黙り込む。

「・・・レオナちゃん?」

「嫌。」

即答。

「・・・スタルウッドさん?」

・・・苗字ならどうだろうか。

というか他に呼び方がない様な気がする。

「〜・・・・っ。・・・・・・もう・・いい。 呼び捨てで。」

どうやら苗字で呼ばれるのも抵抗があるらしく、彼女はあきらめた様に言った。

そして早足で先を進む。

慌ててリョウも後を追った。

女の子は・・・難しい。

 

 

 

 

噴水がある大きな公園。

その周囲にあるベンチに2人は腰掛けた。

太陽は真っ赤に染まっている。

もうすぐ日が暮れる。

昼間は人気がありそうな公園のようだが今は人気はない・・・皆家路に帰るのだろうか。

リョウはその夕日をぼぉっと見つめていた。

自分のこれからの事・・・。

これからどうすればいいのだろう・・・。

老婆に言われていた通り首都に来た。

でも自分はそこで何をすれば良いのか分からないのだ。

てっきり、あの老婆が首都で出迎えてくれるのだと思っていた。

でも違った。

これから、どうすればいいんだろう・・・・。

頭の中はそればかり・・。

 

ふと、何だか急にもの寂しくなってリョウは隣に座っているレオナに声をかけた。

 

「ねぇ・・・レオナは大切なものを奪われたって言ってたけど。」

「・・それが何?」

彼女は彼を横目で見てまた視線を自分の足元に戻した。

「どこにあるの?それって・・。首都のどこに?」

 

「・・・・。」

 

レオナは黙り込んだ。

分からないのだろうか・・とリョウは思う。

もしかして、自分と同じなのだろうか。

勢いでここまで来てしまったのだろうか。

本当は手がかりなんか何も無くて・・。

その場の空気が重くなったのを感じて、リョウは慌てて話題を変えた。

 

「ぼ、僕も勢いでここまで来たようなものだからさ! まぁ、お互い様ってことで!」

「・・・?」

握りこぶしをつくって声を上る彼を見てレオナは怪訝そうな表情を浮かべた。

それを見ながらリョウは続ける。

「僕なんか、君より酷いかも! 

なんか、いきなり首都に行け!! みたいなことを言われちゃってさ。

いざ、ここに来てみたけど何にも分からなくて・・。」

もちろん、ZEROの事は言えるはずがなく、リョウはわざと明るく言った。

しかし・・レオナは食い入るようにリョウを見つめた。

まるで何かを問うように・・。

そして彼女は口を開いた。

「・・・首都・・・・。」

「・・・? う、うん。」

突然彼女に見つめられリョウはたじろぐ。

「・・・・レオナ?」

「もしかして・・・貴方は・・・」

何かを言いかけて、彼女は口をつぐんだ。

瞳がみるみるうちに険しくなる。

「え!? 何!! レオ・・」

声を上げようとしたリョウの口を彼女は手で塞いだ。

「・・・黙って・・。」

こくこくとリョウは頷いた。

 

一体何が起こって・・・?

 

 

日が暮れる・・太陽が沈む・・・。

辺りが薄暗くなった。

変だ・・・こんなに早く太陽は沈むのか?

それに、この暗さ。太陽が沈んだだけではない。

何か、別の・・・。

 

遠くから音が聞こえる。足音だ・・・。

どんどん近づいてくる。1人ではない・・・。

大勢。

しかも一方向だけでなく、四方から聞こえる・・。

 

一瞬、足音が止んだかと思うと、黒装束に身を包んだ兵隊が、リョウたちの前に現れた。

 

 

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